「白い花」 a story someone told
この坂を登りきったら、もうすぐだ。
見たかった景色がきっと見えるはず。
たいして険しい坂道でもないのだが、動きの良くない足で杖をつきながら登っていくのはかなりつらい。
人生終了だと悟った時、最後に大好きな花がいっぱい咲いている丘を見たいと思った。
とにかく丘の頂にたどり着けば後はどうなってもいい。
もう何もかも終わってしまうのだから。
小さな頃から、出会った大切な人やものを両の手で包み込むように感じ、自分自身でないものもできるだけ大事にしてきたつもりだ。
なのに、今の自分はどうだろう。
気持ちをかたむけてくれる人は無く、心をつなぐ相手も失った。
最後は好きな花を見て、好きなように歩き、動けなくなったら静かに終わるつもりだ。
もうすぐ、もうすぐだ、あと一歩。
弱った足に精一杯力を込めて、丘の頂きに踏み上がった。
ひらけた空から柔らかな日の光がさし、顔を照らす。一瞬まぶしくて目をつむる。
それからゆっくり目をあけてみた。
目の前には、数えきれないほどの白い小さな花が一面に広がっていた。
大好きな花がひたむきに白く白く咲いていた。
「命、白い命、私の命」
そう呟いて只々その場に立ち尽くしていた。
数日後。
「ピンポーン」
玄関チャイムが鳴った。モニターに映る女の子の姿。
「おばあちゃん、来たよ」
「あらいらっしゃい、待って今開けるから」
ドアを開けると、女の子は両の手のひらで包み込むように花の苗を持って立っていた。
「おばあちゃんプレゼント、お花好きでしょ?」
「わたし、運んできたよ」
その花はすずらん。
すずらんの花はほんのり薄いピンク色をしていた。
私は差し出された花と女の子の手を、自分の両の手のひらでしっかりと包み込んだ。
女の子の手はとても温かかった。